グラウンドバウンスとは?GNDが0Vではなくなる理由をシミュレーションで理解する

ノイズ設計 / EMC

「GNDは0Vのはずなのに、なぜノイズが出るんだろう?」

回路設計を始めたばかりの頃、私もそう思っていました。GNDは電位の基準、つまり「0Vの固定点」のはずです。ところが実際の回路では、GND電位がふらついて、それがノイズの原因になります。この現象をグラウンドバウンスと呼びます。

この記事では、グラウンドバウンスがなぜ起きるのか、その原理をuSimmicsのシミュレーションで確認しながら解説します。


電子回路は「回路」である ― GNDにも電流が流れる

まず、根本から確認します。

電子回路は、名前の通り「回路(ループ)」を構成しています。電源から出た電流は、ICや素子を通って動作させ、グラウンドを経由して電源に戻ります

回路図ではGND記号を「電位の基準点=0V」として描き、戻り線を省略するのが普通です。でもその省略された線は、実際の基板上では物理的な銅箔パターンや配線として存在しています。

図1: 電子回路は必ず一巡するループを構成する。GNDも電流が流れる「戻り線」である。

この事実が、グラウンドバウンスを理解する出発点です。


GND配線には「インピーダンス」がある

理想的な導線のインピーダンスはゼロです。でも現実の導線・基板パターンは違います。

配線には必ずインダクタンスがあります。直流抵抗は細い線でも無視できるほど小さいのですが、インダクタンスによるインピーダンス(Z = jωL)は周波数が上がるほど大きくなります。ICが高速でスイッチングする現代の回路では、このインダクタンスが見過ごせない値になります。

1本の直線配線(ストレートな単線)でも、1 nH/mm 程度のインダクタンスがあります。たとえば10 mmのGNDパターンなら約10 nH。100 MHzでは約6.3 Ωのインピーダンスになります。

図2: GND配線のインダクタンスによるインピーダンス。周波数が高くなるほど無視できない値になる。

グラウンドバウンスの正体 ― V = L × di/dt

インダクタンスのある配線に電流が流れたとき、電流が変化すると電圧が発生します。式で書くと:

V = L × di/dt

Lはインダクタンス、di/dtは電流の時間変化率です。

デジタルICがスイッチングするとき、電源電流は急激に変化します。たとえば出力が Low → High に切り替わる瞬間、ICは電源から電流を一気に引き込みます。この急峻な電流変化がGND配線のインダクタンスに流れると、式の通り電圧が発生します。

本来0Vであるべきグラウンド電位が、一瞬だけ跳ね上がったり落ち込んだりする ― これがグラウンドバウンスです。

図3: スイッチング電流の変化がGND配線のインダクタンスに電圧を発生させる。これがグラウンドバウンスの正体。

電源側も同じ問題が起きる

グラウンドバウンスという名前ですが、電源線も同じ現象が起きます。電源線のインダクタンスに電流変化が流れれば、電源電圧も同様に変動します。電源とグラウンドは対称的な関係なので、どちらも同様に対策が必要です。


uSimmicsで確認する ― GNDインピーダンスとバウンス波形

では、実際にシミュレーションで確認してみましょう。

回路の構成

以下の回路をuSimmicsで組みます:

  • ICのスイッチング動作を模擬する電流源(立ち上がり時間 1 ns、ピーク電流 50 mA)
  • GND配線を模擬するインダクタ(L = 10 nH)
  • 観測ノード:GND配線上の電圧
図4: シミュレーション回路。GND配線をインダクタ L で模擬する。

シミュレーション結果

図5: シミュレーション結果。電流が急変する瞬間、GND電位が「跳ね上がる」様子が確認できる。

波形から読み取れること:

  • 電流の変化率(di/dt)が大きいほど、GNDの変動(バウンス)は大きくなる
  • インダクタンスLが大きいほど(配線が長いほど)、同じ電流変化でもバウンスが増大する
  • バウンス後はリンギングが発生する(LとC(浮遊容量)によるLC共振)

Lを変えて比較する

L=1→10→30 nH と増やすと振幅も0.05→0.43→0.73 Vと拡大し、GND戻り経路のインダクタンスがバウンス量を直接決めることがわかる。

図6: GNDインダクタンスを変えたときの比較。配線が長くなるほどバウンスが激しくなる。

共通インピーダンス ― バウンスが他の回路にも影響する

グラウンドバウンスがより深刻になるのは、複数の回路がGNDを共用している場合です。

回路Aのスイッチング電流がGND配線(共通インピーダンス)に流れると、その電圧変動は回路Bのグラウンド電位にも影響します。回路Bから見ると、自分自身は何もしていないのにGNDがふらつき、誤動作の原因になります。これを共通インピーダンス結合と呼びます。

図7: 共通インピーダンスによる結合。回路Aのノイズが回路Bに飛び移る経路になる。

グラウンドバウンスの対策

原因がわかれば、対策の方向も見えてきます。V = L × di/dt から、有効な対策は以下の3つです。

① パスコン(バイパスコンデンサ)をICの近くに置く

ICのスイッチング電流を、遠くの電源から供給させるのではなく、ICのすぐ近くに置いたコンデンサから瞬時に供給させます。コンデンサは電荷を蓄えているので、急な電流要求に素早く応答できます。

重要なのは「近く」であること。ICから離れた位置にパスコンを置いても、その間の配線インダクタンスがあるため、高周波では効果が大幅に減少します。

→ パスコンの配置と効果については、次の記事「パスコンはなぜ近くに置くのか?」で詳しく解説します。

② GND配線のインダクタンスを下げる

インダクタンスを下げるには、配線を短く・太く・ストレートにするのが基本です。

プリント基板では、GNDをベタパターン(グラウンドプレーン)にするのが最も効果的です。面状のベタパターンは、線状のパターンよりはるかにインピーダンスが低く、グラウンドバウンスを大幅に抑制できます。4層基板では1層をGND専用のベタ面にするのが標準的な設計です。

③ di/dt を緩やかにする

電流変化を緩やかにすれば、L × di/dt の値が小さくなります。ICの出力ドライブ強度を落としたり、フェライトビーズを挿入して信号の立ち上がりを鈍らせる方法があります。ただしこの方法は信号速度とのトレードオフになるため、デジタル信号の場合は慎重に判断が必要です。

図8: 対策の効果比較。パスコンの挿入とGNDインピーダンスの低減でバウンスが大幅に改善する。

まとめ

グラウンドバウンスのポイントをまとめます。

  • GNDは「電位の基準点」だが、現実の配線にはインダクタンスがある
  • スイッチング電流が急変すると、V = L × di/dt によりGND電位が変動する ― これがグラウンドバウンス
  • 複数の回路がGNDを共用すると、共通インピーダンスを介して干渉が広がる
  • 対策は①パスコンをICの近くに置く、②GNDインダクタンスを下げる(ベタパターン)、③di/dtを緩やかにする

GNDを「ただの0V線」として軽視すると、ノイズ問題で苦労します。GNDも信号と同じように「インピーダンスを持つ導体」として設計することが、ノイズに強い基板を作る第一歩です。

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