コモンモードノイズとは何か?ノーマルモードとの違いをフィルタ回路で理解する

ノイズ設計 / EMC

「コモンモードノイズ」という言葉は、EMCの資料や規格書によく出てきます。でも「ノーマルモードと何が違うのか」「なぜコモンモードは除去しやすいのか」がピンとこないまま使っている人は多いはずです。

この記事では、2つのモードを定義から整理し、コモンモードフィルタがどう機能するかをフィルタ回路と等価回路で解説します。

信号は必ず「2本の線」で伝わる

まず基本から確認します。電気信号は、必ず往き線と戻り線の2本でループを作って伝わります。回路図には1本しか描いていなくても、グラウンド線が共通の戻り線として必ず存在しています。

この「2本の線がある」という事実が、コモンモードとノーマルモードを考える出発点です。

ノーマルモードとコモンモードの定義

数式の前に、具体的なイメージで考えてみます。ICから2本の線(D+・D-)が伸びて、離れた受信側まで信号を送っているとします。

設計者が意図して送る信号は、この2本の線に互い違いの波形を乗せます。D+がHighに上がる瞬間、D-はLowに下がる。受信側で2本の電圧を引き算すれば、振幅が2倍になった綺麗な信号が取り出せます。これがノーマルモード(ディファレンシャルモード)です。

一方、外部から飛んでくるノイズは、2本の線がすぐ隣を平行に走っているため、同じタイミング・同じ向きで両方の線に同じように乗ってきます。D+にもD-にも、まったく同じ形のノイズが重なります。これがコモンモード(同相モード)です。

図1: ノーマルモード(差動)とコモンモード(同相)のイメージ。信号は2本の線に逆位相で乗り、ノイズは2本の線に同じ位相で乗る。

これを電圧の式で表すと次のようになります。2本の線(A線・B線)にそれぞれグラウンドからの電圧 EA、EB があるとすると:

ノーマルモード(ディファレンシャルモード)は、2本の線のの電圧差です:

EN = EA − EB

これが「信号」として使われる電圧です。往き線と戻り線で逆方向に流れる電流のペアが作ります。

コモンモード(同相モード)は、2本の線に共通して乗っている電圧です:

EC = (EA + EB) / 2

2本の線が同じ方向に、同じ大きさで変動するモードです。上の図で言えば、逆位相で乗っている波形部分がEN、同じ位相で重なっているノイズ部分がECに対応します。

電流で言い換えると:

  • ノーマルモード電流:2本の線を逆方向に流れる(往復の)電流
  • コモンモード電流:2本の線を同じ方向に流れる電流

「欲しい信号」はノーマルモード、ノイズは両方乗る

設計者が意図して送る信号は、必ずノーマルモードです。コモンモードで信号を送ることはしません(戻り道が不安定になるため)。

一方でノイズは勝手に乗ってきます。ノーマルモードノイズコモンモードノイズも、どちらも存在します。

ここが重要な違いです:

  • ノーマルモードノイズ:信号と同じモード → 信号との区別がつかない。周波数が離れていればフィルタで除去できるが、原理的に除去が困難
  • コモンモードノイズ:信号と異なるモード → モードの差を利用して除去できる

コモンモードノイズの方が「対処しやすい」というのは、このモードの差を利用できるからです。

コモンモードノイズが有害になるとき

コモンモードは「2本の線が同じように動く」ので、理屈上は差動で受信するレシーバには影響しないはずです。電車が一定速度で走っているとき、乗客が電車内でジャンプすると元の位置に着地する ― それと同じで、システム全体が一様に変動するなら誤差は出ません。

問題が起きるのは、場所によってコモンモード電圧の大きさが異なるときです。

たとえば離れた2台の機器を信号線でつないで、それぞれ別の場所で大地に接続すると、大地の電位は場所によってわずかに異なります。この電位差がコモンモード電圧として両機器間に加わり、ノーマルモードノイズに化けることがあります。

コモンモードとノーマルモードの「フィルタの違い」

通常のローパスフィルタ(RCフィルタ、LCフィルタ)はノーマルモードしか除去できません。なぜか? ノーマルモードのバイパス経路(コンデンサのショート路)は用意されていますが、コモンモードをバイパスする経路がないからです。

コモンモードフィルタは、コモンモードをバイパスする経路(対グラウンドのコンデンサ)を持っています。

図2: 左:通常LCフィルタ/右:コモンモードフィルタ

コモンモードチョーク(CMC)

コモンモードフィルタの中核部品がコモンモードチョーク(CMC)です。2本の線を同じコアに同方向に巻いたインダクタで:

  • ノーマルモード電流:2本の磁束が打ち消し合う → インダクタンスが低い → 信号を通す
  • コモンモード電流:2本の磁束が加算される → インダクタンスが高い → 阻止する
図3: コモンモードチョークの動作原理。2本の線を同方向に巻くことで、コモンモード成分だけに高インピーダンスになる。

ディファレンシャル形レシーバによる除去

フィルタ以外のもう一つの手段が、ディファレンシャル形レシーバ(差動レシーバ)の使用です。

差動レシーバは2本の入力の「差電圧(ノーマルモード)」だけを検出します。コモンモード成分は2本の入力に等しく乗るので、差を取るとキャンセルされます。

RS-422/RS-485 などの差動インターフェース規格が長距離・ノイズ環境に強い理由は、この差動受信にあります。グラウンドを共有しない機器間でも、コモンモードノイズをキャンセルしながら信号を受信できます。

図4: 差動レシーバ回路。入力の差を取ることでノイズを相殺し、信号だけを取り出せる。

まとめ

  • ノーマルモードは2本の線の「差電圧」、コモンモードは「共通電圧」
  • 欲しい信号はノーマルモード。ノイズはどちらのモードでも乗る
  • コモンモードノイズはモードの差を利用して除去できる ― だから「除去しやすい」
  • コモンモードフィルタ(CMC+Yコンデンサ)はコモンモードのみに高インピーダンスを示す
  • 差動レシーバはコモンモードをキャンセルして信号だけを取り出す

コモンモードとノーマルモードを区別して考えることは、フィルタ選定・基板設計・ケーブル選択など、あらゆるノイズ対策の判断基準になります。

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