「パスコンはICの近くに置け」
回路設計の教科書には必ずこう書いてあります。でも「なぜ近くでないといけないのか」を説明しているものは意外と少ない。「とりあえずルールだから」と覚えているだけでは、いざ実装で困ったときに応用が効きません。
この記事では、パスコンが機能する仕組みと「近くに置く」理由を、寄生インダクタンスの観点から解説し、uSimmicsのシミュレーションで波形として確認します。
パスコンとは何か ― ICの「瞬間充電器」
パスコン(バイパスコンデンサ)の役割を一言で言うと、ICが急に電流を必要としたとき、その電流を素早く供給する「ローカル電源」です。
デジタルICがスイッチングするとき、電源から瞬間的に大きな電流を引き込みます。この電流を遠くの電源から供給しようとすると、電源ライン・GNDライン上のインダクタンスが邪魔をして、電圧が大きく変動します(前の記事で解説したグラウンドバウンスがこれです)。
パスコンをICのすぐ近くに置いておけば、ICは「遠くの電源」ではなく「目の前のコンデンサ」から電荷を取り出せます。コンデンサはインダクタンスがほぼゼロで電荷を放出できるので、電圧変動を大幅に抑えられます。

パスコンとICの間には、基板パターンが存在します。このパターンは必ずインダクタンスを持ちます。ICとパスコンの距離が離れるほど、このインダクタンスは大きくなります。以降ではこの配線由来のインダクタンスをL_wireと表記します。
コンデンサとインダクタンスが直列になると、LC回路を形成します。高周波では、このインダクタンスが大きなインピーダンスとなって、コンデンサへの電流の流れを妨げます。つまり、ICから見てパスコンが「遠く」になるほど、高周波では効果がなくなります。
コンデンサ自身にも寄生インダクタンスがある
さらに注意が必要なのは、コンデンサ本体にも等価直列インダクタンス(ESL)があることです。以降ではこれをL_eslと表記します。チップコンデンサのESLは 0.5〜1 nH 程度ですが、リード付きコンデンサになると 5〜20 nH 以上になります。
このESLのために、コンデンサには「コンデンサとして動作できる上限周波数(自己共振周波数)」があります。その周波数を超えると、コンデンサはインダクタとして振る舞います。
パスコンに使う部品がチップセラミックコンデンサ推奨なのは、この ESL が小さく、高周波まで効果を維持できるからです。
ここまでで登場した2つの寄生インダクタンス ― 配線由来のL_wireとコンデンサ自身のL_esl ― は、下図のように直列に入ります。パスコン本体のCと合わせると、実際の等価回路は「C・L_wire・L_esl」が直列になったLC回路であることが分かります。

図2: パスコンの等価回路。配線インダクタンスL_wireとコンデンサのESL(L_esl)が直列に入り、高周波での効果を減殺する。
uSimmicsで確認する ― 距離の違いによる効果の差
実験1:パスコンの距離を変える
実際にどれだけ変わるか、シミュレーションで見てみましょう。
以下の回路をuSimmicsで組みます:
- 電圧源(VCC = 3.3V)
- ICのスイッチング動作を模擬する電流源(立ち上がり時間 1 ns)
- ICとパスコン間の配線を模擬するインダクタ(L_wire)
- パスコン(C = 0.1 μF、ESL = 1 nH)
- 観測ノード:ICの電源ピン電圧

図3: シミュレーション回路。L_wireを変えることでICとパスコンの距離を模擬する。

波形から確認できること:
- パスコンが近い(L_wire小)ほど、電源電圧の変動が小さく抑えられる
- パスコンが遠い(L_wire大)と、パスコンがあっても効果がほとんど出ない場面がある
- リンギングの周期が配線インダクタンスに比例して長くなる(LC共振周波数が下がる)
実験2:コンデンサの容量を変える

2段階配置が正解 ― 周波数帯域をカバーする
1個のパスコンで全周波数帯をカバーするのは難しいため、パスコンは2段階で配置するのが基本です。
1段目:基板入り口(低周波対応)
電源を基板に引き込んだ直後に設置します。目的は:
- 外部配線から侵入してきたノイズのフィルタリング
- 基板全体の電源インピーダンスの低周波成分を下げる
使う部品:数十 μF 程度のアルミ電解コンデンサまたはタンタルコンデンサ。必要に応じてインダクタと組み合わせてLCフィルタを構成します。
2段目:ICの直近(高周波対応)
ICの電源ピン・GNDピンのすぐ横に設置します。目的は:
- ICのスイッチング電流を瞬時に供給
- 高周波領域の電源インピーダンスを下げる
使う部品:0.01〜0.1 μF のチップセラミックコンデンサ(ESLが小さいこと優先)。原則としてIC 1個につき1個配置。消費電流が小さく低速なICは2〜3個に1個でも可。

2段目をさらに2個にする場合
高周波対応をより広い周波数帯域でカバーしたい場合、2段目のコンデンサを2種類(例:0.1 μF + 0.001 μF)にする方法もあります。このとき、容量の小さい方をICに近い側に置きます。小容量のコンデンサほど自己共振周波数が高く、超高周波に対して有効だからです。
実装上の注意点
「近く」とはどのくらい?
目安は、ICの電源ピン・GNDピンから 2〜3 mm 以内。基板パターンの引き回しで実質的な距離が長くなるケースに注意が必要です。
ここで重要なのは、見た目の設置位置が近いことではなく、電流が実際に流れる配線経路が最短であることです。パスコンをICのすぐ隣に置いても、電源やGNDへのパターンが遠回りに引き回されていれば、電流経路としての距離は長くなり、寄生インダクタンスも同じように増加します。逆に、多少の余白があっても配線が直線的で短ければ効果は維持できます。判断基準は「物理的な近さ」ではなく「配線経路の長さ」に置くべきです。

GNDビアの位置も重要
多層基板では、パスコンのGND側をGNDプレーンに接続するビアを、できるだけパスコンの直下に設けます。ビアが離れると、その間のパターンもインダクタンスになります。
まとめ
- パスコンはICのスイッチング電流を瞬時に供給し、電源電圧変動を抑える「ローカル電源」
- ICから離れるほど配線インダクタンスが増え、高周波での効果が失われる ― だから「近くに置く」
- コンデンサ自身のESLも高周波特性を制限するため、チップセラミックコンデンサを使う
- 2段階配置(基板入り口の大容量 + IC直近の小容量)で広い周波数帯域をカバーする
「パスコンを置けばいい」ではなく、「どこに・何を・何段で置くか」まで考えることが、実際のノイズ対策では重要です。
関連記事
- 前の記事:グラウンドバウンスとは?GNDが0Vではなくなる理由をシミュレーションで理解する
- 次の記事:1点GNDとGNDプレーンはどちらが正しい?低周波と高周波で考え方が変わる理由
- 関連:ノイズ対策の基本フレーム ― シリーズ導入記事


Comment