「なぜ基板からノイズが放射されるのか?」
EMC試験で不合格になった回路を調べると、問題の多くが「ループを形成している配線」に行き着きます。この記事では、電気回路がアンテナとして機能する仕組みと、ループ面積がノイズ放射に直結する理由を解説します。
アンテナの基本 ― 2種類のアンテナ
アンテナには大きく2種類あります。
ロッドアンテナ(直線アンテナ):直線状の導体です。放射強度は「アンテナの長さ × 電流」に比例します。近傍では電界が支配的です。
ループアンテナ:ループ状の導体です。放射強度は「ループの面積 × 電流」に比例します。近傍では磁界が支配的です。

そして基板上の配線は、意図せずこの両方のアンテナとして機能します。
信号配線の「隠れたループ」
ここが最も重要なポイントです。
基板上の信号線は一見「短い直線」に見えます。しかし信号は必ず往きと戻りのループを作ります。戻り路は共通GND配線です。信号線+GND配線がループを形成しており、そのループ面積が放射強度を決めます。

式で整理すると、ループアンテナの放射強度は:
放射電界強度 ∝ ループ面積(S) × 電流(I) × 周波数²(f²)
つまり、ループが大きく、電流が多く、周波数が高いほどノイズ放射が増えます。デジタル回路のクロック周波数が高くなるほどEMC問題が深刻になるのは、周波数の二乗で放射が増えるからです。
ループ面積を小さくすることが基本対策
放射を抑える最も直接的な方法は、ループ面積を小さくすることです。
対策1:信号線とGNDを近づける
信号線の直下にGNDプレーンを配置すると、GND電流は信号線の真下を流れ、ループ面積が最小になります。これが多層基板でGNDプレーンを設ける主な理由の一つです。

対策2:戻り路を意識した配線
GNDプレーンがない2層基板では、GND電流がどこを流れるか意識することが重要です。GND配線を信号線の隣に並走させると、ループが小さくなります。
対策3:デカップリングコンデンサでループを局所化
ICの電源電流の急変はループ放射の主要原因です。パスコンをICの直近に置くことで、大電流が流れるループをIC周辺の小さな範囲に局所化できます。
ロッドアンテナ作用 ― 外部ケーブルからの放射
ループアンテナ作用が基板内の問題なら、ロッドアンテナ作用は主に外部ケーブルの問題です。
電子機器から外に出るケーブルは、長い直線状の導体です。ケーブル内の信号電流(ノーマルモード)は往復が打ち消し合うので放射しません。しかしコモンモード電流は同じ方向に流れるため打ち消しが起きず、長いロッドアンテナとして強力にノイズを放射します。
スイッチング電源はコモンモードノイズの代表的な発生源です。基板内部のコモンモードノイズが外部ケーブルに乗ると、そのケーブルが巨大なアンテナになります。逆に外部の強電ノイズを、ケーブルを通じてコモンモードで取り込むことにもなります。

コモンモードフィルタ(CMC)をケーブル出口に置く理由がここにあります。ケーブルに乗り出す前にコモンモード成分をカットすることで、ケーブルがアンテナになることを防ぎます。
ループはインダクタンスも増やす
ループ面積が大きいことのデメリットは放射だけではありません。ループ状の配線はインダクタンスを持ちます。ループが大きいほどインダクタンスが増え、V = L × di/dt によるノイズ電圧も増加します。
つまり「ループ面積を小さくする」ことは、放射ノイズ低減とグラウンドバウンス低減の両方に効く、一石二鳥の対策です。
まとめ
- 配線は意図せずアンテナとして機能する。ループ状の配線はループアンテナ、直線状の配線はロッドアンテナ
- ループアンテナの放射強度は「ループ面積 × 電流 × 周波数²」に比例する
- 信号線の戻りであるGND電流を含めたループが実際の放射源。GNDプレーンで直下に戻し、ループ面積を最小化する
- 外部ケーブルはコモンモード電流に対して強力なロッドアンテナになる → CMCでカット
- ループ面積の削減は放射低減とインダクタンス低減を同時に達成する


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