高周波回路設計の世界では、信号伝送の整合性を保つことが何よりも重要です。もし伝送線路の特性インピーダンスと部品やコネクタのインピーダンスが一致しなければ、信号の反射や損失が起こり、これがシステム全体のパフォーマンスを下げる原因になります。伝送線路のインピーダンスをどれほど注意深く調整しても、部品を接続する箇所で予想外のインピーダンスの変化が発生することがあります。
この記事では、そうした問題を避けるための対策とシミュレーションの方法を解説します。具体的には、部品のフットパターンがインピーダンスに与える影響に焦点を当て、信号の品質を保つための適切な設計とシミュレーション手法を紹介します。
特性インピーダンスの役割
伝送線路での特性インピーダンスは、電圧と電流の関係を示し、信号が正確に伝わるためには欠かせません。
しかし、コンポーネントのフットパターンの形状によっては、信号の劣化が起こることがあります。通常フットパターンは、はんだ付けをしやすくするためや、部品がしっかりと固定されるようにランド部分を大きめに設計しますが、この設計が意図しない寄生容量を生んでしまい、インピーダンスに悪影響を与えることがあります。
高周波回路設計では、これらの小さな影響も大きな問題につながるため、シミュレーションと分析を通じて、影響を詳細に把握することが重要です。
U.FLコネクタのフットパターンシミュレーション
50Ωのマイクロストリップ線路に広く使用される同軸コネクタ、U.FLコネクタの推奨フットパターンを使用した設計例をQucs Studioでシミュレートします。
今回は下記の仕様のPCBでL1とL2層を使用して50Ωのマイクロストリップラインを設計します。「Transmission Line Calculator」で設計すると、50Ωとなるトレース幅は171μmになります。
このマイクロストリップラインをシミュレーションすると、特性インピーダンスは50Ωとなり通過特性も良好なことが確認できます。
次にマイクロストリップラインにU.FLコネクタを接続した場合のシミュレーションを行い、フットパターンの影響を観察します。
U.FLの推奨フットパターンは下記のとおり、実装の観点からは信号ピンは1.0×1.0mmの正方形でランドを形成するよう推奨されています。
このランドのシミュレーションモデルは、マイクロストリップラインと同じく「Transmission Line Caliculator」作成します。基板の誘電率や高さ(H)はそのままでW=1.0mm、L=1.0mmと指定します。
シミュレーション結果は、部品の推奨フットパターンが特性インピーダンスに影響を与え、回路の伝送特性に悪影響を及ぼす可能性があることを示しています。
赤:ストリップラインのみ 青:ストリップライン+フットパターン
インピーダンス低下の原因
U.FLコネクタの基板設計にて、フットパターンのサイズが大きいことで寄生容量が増加し、これが特性インピーダンスに主要な影響を与えます。
特性インピーダンスはインダクタンスとキャパシタンスの値によって算出され、フットパターンのサイズ増加に伴いキャパシタンスが増え、結果としてインピーダンスが下がります。
インピーダンス低下の改善策
インピーダンス低下を軽減するためには、フットパターンの最適化が有効です。寄生容量はフットパターンの大きさとGNDまでの距離によって決まります。
GND層までの距離をとることで寄生容量を減少させることが可能です。
したがって、フットパターン下のレイヤーを抜くことによって、この改善を図ることができます。
次のようにフットパターンをL2やL3層を抜いて配置することで、GNDとのクリアランスを拡大し、寄生容量を減少させることができます。
このようにクリアランスを拡大したフットパターンの通過特性をシミュレーションすると、GNDとの距離を広げて寄生容量を減少させることで、インピーダンス低下の影響を軽減できることが確認できます。
まとめ
この記事では、高周波回路設計での信号伝送整合性の重要性と、インピーダンスの不一致が引き起こす問題について解説しました。特に、コンポーネントのフットパターンがインピーダンスに及ぼす影響をU.FLコネクタの例を通して検証し、シミュレーションを用いてその効果を明らかにしました。
また、インピーダンス低下の改善策としてフットパターンの最適化の重要性にも触れました。この情報を活用して、より効果的な高周波回路設計を行うことができます。
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