QucsStudioを使用したマイクロストリップラインの特性インピーダンス計算

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PCB設計の世界では、特性インピーダンスの適切な管理が信号伝達の品質を左右します。この記事では、特性インピーダンスの基本からその重要性、計算方法に至るまで、QucsStudioを用いて具体的に解説していきます。

1. 特性インピーダンスの概念

特性インピーダンスは、PCB上での電気信号の伝達における「電圧と電流の比」を指します。この比率は、信号伝達の品質や効率に直接影響を与える、電圧と電流の関係性を示す数値化された指標です。信号がどれだけスムーズに伝わるかを示す抵抗の尺度です。

水が管を通る際の流れやすさが管の特性によって変わるように、電気信号もPCBの特性によってその流れが変わります。特性インピーダンスは、この電気信号の流れやすさを電圧と電流の比率で表したものです。

信号伝達において特性インピーダンスが一致していると、信号はスムーズに伝わり、反射や損失は最小限に抑えられます。しかし、不一致があると信号は適切に伝わらず、反射や損失が起こり得ます。したがって、PCB設計時にはこのインピーダンスの適切な管理が非常に重要になります。

2. 特性インピーダンスの重要性

特性インピーダンスの一致は、PCB設計で信号品質を保持し、電子機器の性能を最大化するために重要です。特性インピーダンスが合致しない場合、信号の反射や損失が発生し、信号品質に悪影響を及ぼします。高速デジタル信号や高周波数信号を扱う場合、この不一致はデータ転送エラーや性能の低下を引き起こしやすくなります。したがって、PCBのトレース幅、材質、基板の誘電率など、特性インピーダンスに影響を与える要素を正確に計算し、管理することは非常に重要です。特性インピーダンスを管理することは、信号の反射や損失を最小限に抑制し、信号伝達効率を向上させます。

3. 特性インピーダンスを計算するための要素

特性インピーダンスの正確な計算には、以下の物理的特性を考慮する必要があります。

  • トレース幅 (Trace Width): トレース幅は、信号伝達経路の抵抗と直接関連しており、特性インピーダンスを決定する上で重要な要素です。幅が広いほどインピーダンスは低くなり、狭いほど高くなります。
  • トレースの厚さ (Trace Thickness): トレースの厚さもインピーダンスに影響を与えます。厚いほど、電流の通り道が広くなり、インピーダンスが低下します。
  • 基板の誘電率 (Substrate Dielectric Constant): 基板の材質による誘電率は、電磁波の伝播速度に影響を及ぼし、これがインピーダンスに影響します。誘電率が高い材質を使用すると、伝播速度が低下し、インピーダンスも低下する傾向にあります。
  • 基板の厚さ (Substrate Thickness): 基板の厚さは、特に微細なトレース幅を持つ高密度配線において、キャパシタンスに影響を与え、インピーダンスの計算に重要です。
  • トレースと基板GNDの間隔 (Separation between Trace and Substrate): トレースと基板の間隔が広いほど、キャパシタンスが減少し、インピーダンスが増加します。

これらのパラメータを適切に設定し、特性インピーダンスを考慮することで、信号の反射や損失を最小限に抑制し、信号品質を最適化することが可能になります。 QucsStudioを使用してこれらの要素の影響を具体的に計算し、最適なPCB設計を実現できます。

4. QucsStudioによる特性インピーダンスの計算

QucsStudioは、これらの物理的特性を基に特性インピーダンスの計算を行うことができる強力なツールです。QucsStudioを使用して、所望の特性インピーダンスを達成するために必要なトレース幅や基板のパラメータを算出する方法を紹介します。

次の仕様のPCBで構成されるマイクロストリップラインを例にして、実際にQucsStudioを使用して特性インピーダンスを求めてみます。

1. Line Calculationの起動

  • 起動: QucsStudioメニューバーの「Tools」からLine Calculationを選択します。
  • 種別の選択:「choice」からインピーダンスを計算したい構造「Micro Stripline」を選択します。
  • 必要なパラメータの入力: ここで、インピーダンス計算に必要なパラメータを入力します

2. 基板情報の入力

まずPropertiesに基板の情報を入れます

  • εr: 基材の比誘電率です。一般的なFR-4は4.5ですが、使用する基材によって異なるため、具体的な値は基材の仕様を参照してください。
  • tanδ:基材の電気的損失を表す指標の誘電正接を入れます。これも使用する材料に合わせて数値を入れてください。特性インピーダンスには影響しませんが、伝送損失に影響するため高周波の信号を使用する基板では重要です。
  • Resistivity: 導体の抵抗率を入れます。銅の場合は1.72×10-8Ωです。これも特性インピーダンスには影響せずに伝送損失に影響します。
  • Conductor μr:基材ではなく導体の比誘電率です。使用する導体の値を入れます。
  • Roughness:導体の表面粗さです。一般的に高い周波数を使う用途では表皮効果の影響が大きくなるので表面が滑らかな材料を使います。基板の仕様に合った値を入れてください。GHzオーダーの周波数の場合にはそれほど気にする必要はありません。
  • T:導体の厚みです。今回の基板例では35um。
  • H:誘電体の厚み。今回は1.5mm。

次に右上の「Parameters」にターゲットとする周波数を入れることで準備は完了です。

3. 特性インピーダンスの確認

「Dimensions」にてトレース幅Wの値を入力すると、それに応じた特性インピーダンスが計算され表示されます。また逆に特性インピーダンスZoに値を入力すると、必要なトレース幅を計算して出力してくれます。

今回の基板ではトレース幅を2.77624mmとすることで特性インピーダンス50Ωのマイクロストリップラインが形成できることがわかりました。

5. まとめ

特性インピーダンスはPCB設計において信号品質を保持し、電子機器の性能を最大化するために重要な要素です。これは、信号の伝達経路での電圧と電流の比率を指し、信号がスムーズに伝わるかを示す指標です。

特性インピーダンスの計算には、トレース幅、基板の誘電率、トレースと基板GNDの間隔など、複数の物理的特性を考慮する必要があります。QucsStudioは、これらの要素を基に特性インピーダンスを正確に計算し、最適なPCB設計を実現するための強力なツールです。

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