モンテカルロシミュレーションのパラメータ設定の詳細解説

シミュレーション

QucsStudioのシミュレーション機能を活用する際に、モンテカルロ解析は特に強力なツールです。前回の記事では、ローパスフィルタ設計の基本について説明しましたが、今回はモンテカルロ解析におけるtol関数に焦点を当て、その使用方法と適用範囲について詳しく解説します。

tol関数に焦点を当てる理由は、モンテカルロ解析を実施する際に、多くのユーザーが素子のばらつきをどのように設定すればよいかわからない、あるいはパラメータの理解不足により誤ったシミュレーションを行っているという問題があるからです。現実の回路設計では、抵抗やコンデンサといった部品は製造誤差や環境要因でばらつきが生じます。これらのばらつきを適切にモデル化することが、シミュレーションの精度を高めるために重要です。

しかし、多くのユーザーはtol関数のパラメータ設定に慣れておらず、ばらつきの範囲や分布を適切に指定できていません。その結果、シミュレーション結果が実際の動作を反映しない、誤った結論に至ることが少なくありません。

tol関数を正しく設定することで、回路のパフォーマンスをより正確に評価でき、製造誤差や環境変動による影響をシミュレートすることが可能です。これにより、設計段階での検討事項が現実に即したものとなり、回路の信頼性や性能を確保する上で大きな助けとなります。

モンテカルロシミュレーションとは

モンテカルロシミュレーションは、不確実性を伴うシステムやプロセスを理解するための方法です。このシミュレーションでは、システムの入力にいろいろなランダムな値を使って、何度も計算を繰り返します。その結果を集めて、分布を調べます。この分布を分析することで、システムがどのくらいの頻度でどのような結果を出すのかを知ることができ、システムの性能や信頼性を評価できるのです。

たとえば、抵抗器やコンデンサなどの部品が製造過程で±5%のばらつきを持つ場合、その影響が回路全体にどのように現れるかをシミュレートするのがモンテカルロ解析の目的です。

変動範囲のモデル化

モンテカルロシミュレーションを実施するには、シミュレーションに使用する入力変数の変動を設定する必要があります。QucsStudioでは、この変動を簡単に設定するためのtol関数というものが用意されています。

tol関数を使うことで、データのばらつき範囲を簡単に指定することができます。例えば、特定の抵抗値が平均値を中心にどの程度変動するかを定義することで、実際の製造誤差や動作環境の変動をシミュレーションに反映させることができます。この関数は、モンテカルロシミュレーションにおいて変数のランダムな変動をシミュレートするための関数です。

tol関数の書式

QucsStudioのtol関数は、3つの引数 x, v, d を使用して変数のばらつきを指定し、ランダムな変動をシミュレートすることができます。

tol(x, v, d)
  • x: 平均値
  • v: 許容範囲(%)
  • d: 分布タイプ(0 = 通常分布、1 = 一様分布、デフォルトは0)

今回は例として、偏差が100Ω±10%の抵抗器の場合を考え、これをtol関数で表すと次のようになります。平均値とはばらつきのセンターの値を指定するのでこの場合は「100」となります。また許容範囲はばらつきの範囲を示すので±10%の場合は「10」と設定します。

分布タイプとは

tol関数の分布タイプには次の2種類がありそれぞれの特性が異なります。分布タイプは重要でありこの理解によりシミュレーションが想定した範囲で行われない場合があるので正しく理解する必要があります。通常分布と一様分布の違いは

  • 通常分布(正規分布): データは平均値を中心に対称的に分布し、平均値から離れるほどその値が出現する確率が低くなります。分布の形状はベルカーブになります。
  • 一様分布: 指定された範囲内でデータが均等に分布し、範囲内の任意の値が等しい確率で出現します。分布の形状は矩形になります。

それぞれの分布を平均値100、許容範囲10%としたときの分布のグラフは次のようになります。

まず通常分布ですが、図のように100を中心とした正規分布になります。許容範囲(v)を±10%と設定すると標準偏差(σ)が10Ωとなる正規分布のデータ分布になります。注意しなければならないのは90~100Ωの範囲外にも分布が発生し、バラつきの範囲が±10%になるわけではありません。

また一様分布ですが、こちらはシンプルで±10%、つまり90~110Ωまで同じ割合のデータ分布になり、それ以外の範囲にはデータ存在しません。つまり、バラつきの上限と下限は10%の範囲に収まります。しかし、データ範囲の中心と上限、下限の割合が等しいので実際の部品バラつきの割合を検証するのには向いていません。実際の電子部品は範囲の中心付近が一番分布が多くなり、バラつきの上限や下限にいくほど少なくなる正規分布になります。

設定上の注意

実際の抵抗やコンデンサなどのコンポーネントのばらつきは一様分布ではなく正規分布になりますが、
前述したとおり、部品の偏差(%)をそのまま許容範囲(v)としてしまうと正しくシミュレーションができません。実際の部品の分布をシミュレーションする方法については別記事で紹介します。

結論

tol関数を使用することで、モンテカルロシミュレーションにおいて入力変数のランダムな変動を効果的にシミュレートできます。通常分布と一様分布の特性を理解し、適切に設定することで、システムの性能や信頼性を高精度に評価することが可能です。

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