ノイズ対策というと、「とりあえずパスコン」「とりあえずフェライト」になりがちです。もちろんそれらが効くケースは多いのですが、当て勘で進めると、効いた理由が分からず次に再現できません。
そこで今回は、ノイズ対策を整理するための基本フレームを紹介します。あわせて、uSimmics(QucsStudio)で簡単な回路モデルを作りながら、回路図に描かれていない要素(寄生成分)が、波形にどう影響するかをシミュレーション結果で解説します。
ノイズの困りごとは3つに分けると整理しやすい
「ノイズが原因かも」と感じたとき、まずは困りごと(症状)を3つに分けると整理しやすくなります。
- 誤動作:デジタルのHとLの判定が狂う、リセットがかかる、通信が落ちる、誤割り込みが入る
- 性能劣化:受信感度低下、SNR悪化、ジッタ増加、画像/音声の乱れ
- 外部への影響・規格不適合:不要輻射/不要伝導で規格に落ちる、周辺機器へ干渉する
この3分類は“症状の違い”を整理するものです。一方で原因の構造は共通で、どれも発生源→伝搬→被害点で説明できます(例:不要輻射なら「発生源=スイッチング、伝搬=配線・筐体、被害点=周辺機器」)。そのため、内部の誤動作/性能劣化も、不要輻射・伝導(規格)も、同じ枠組みで考えられます。
ノイズ対策の基本フレーム:発生源→伝搬→被害点
ノイズは、単に「出ている」だけでは問題になりません。発生して、伝わって、被害点に入り込んではじめて困りごとになります。
- 発生源(Source):スイッチング、クロック、DC/DC、I/Oの立上り、モータ/リレーなど
- 伝搬(Path / Coupling):配線、電源、GND、ケーブル、空間(結合C/L、反射、共通インピーダンス)
- 被害点(Victim):受信回路、基準電圧、ADC、クロック入力、リセット、センサー線など
この3点で見ると、「どこを潰すのが効くか」が明確になります。
どこを潰すのが効く?(優先順位の考え方)
手戻りを減らすための考え方として、次の順番が基本です。
- 発生源を弱くできるなら最強:立上りを遅くする、ドライブを弱める、周波数をずらす、スプレッドスペクトラムを使う など(性能とのトレードオフあり)
- 発生源を止められないなら伝搬を切る:帰路(リターンパス)を強くする、ループ面積を小さくする、終端、フィルタ、シールド など
- 最後に被害点を強くする:ノイズが入り込んでも誤判定しないように、入力に余裕(マージン)や安定化(ヒステリシス、RC)を持たせ、必要なら保護素子や配線見直しで“入りにくく・壊れにくく”する など
実務で一番効く場面が多いのは、「伝搬(Path)の抑制」です。特に基板では、回路図に描かれていない寄生成分が伝搬を作ります。
回路図に描かれていない“犯人”:寄生成分(L/C/R)
ノイズ対策で本質になりやすいのは、回路図にない要素です。特に次の3つは、ほぼ必ず登場します。
配線はインダクタ(L)
配線やビア、GNDの帰路にはインダクタンスがあります。電流が急に変化(di/dtが大)すると、そのインダクタンスにL×di/dtの電圧降下が生まれます。
GNDは理想的には0Vですが、実際のGNDは配線でつながっているため、この電圧降下の分だけ「その場所のGND電位」が上下します。これがいわゆるGNDが揺れる状態です。
GNDが揺れると、リセット端子や基準電圧が“相対的に”動いて見えるため、誤リセットや誤判定につながることがあります。
隣の配線は容量結合(C)
隣り合う配線どうしには、わずかな結合容量があります。つまり、回路図に描かれていなくても、2本の配線の間に「小さなコンデンサ」があるように振る舞います。
この状態で一方の配線の電圧が急に変化(dv/dtが大)すると、その結合容量を通って一瞬だけ電流が流れます。その電流が、もう一方の配線に小さな電圧変化を作り、波形としてはスパイクに見えます。
この「隣の線の変化が、別の線に入り込む」現象がクロストークです。立上りが速い信号ほどスパイクが出やすく、被害線のインピーダンスが高いほど目立ちます。
“損失(R)”も重要
理想的なLやCは、エネルギーを「ためる」「返す」だけの部品です。エネルギーが熱として消えないので、いったん揺れ(リンギング)が始まると、なかなか収まりません。
リンギングを止めるには、エネルギーを逃がす仕組みが必要です。そこで効いてくるのが損失(R)です。Rはエネルギーを熱として消費するので、揺れを減衰させられます。
フェライトビーズが効く理由も、この考え方で説明できます。フェライトは周波数が上がるほど損失成分が増えやすいため、高周波の揺れやスパイクを“熱として落とす”方向に働きます。
uSimmicsで解説:GNDは理想0Vじゃない
ここではuSimmicsで超小型の回路モデルを作り、「寄生LがあるとGNDが揺れる」ことを波形で確認します。狙いは、ノイズの伝搬(Path)がどこで生まれるかを掴むことです。
回路イメージ
- VPulse(0→1Vのパルス)
- Rload(負荷抵抗)
- GND
- そしてGND帰路に小さいL(例:5nH)を1個だけ入れる(=配線の寄生Lのつもり)
VPulse → Rload → node(out) → Lgnd(5nH) → GND

観測点(電圧プローブ)
- V(out):Rloadの出力側(信号として見たい点)
- V(gnd_local):Lgndの上側(回路側のGND点)
VPulseの立上りを速くすると(例:TR=1nsなど)、V(gnd_local)に小さなパルスが出ます。これが「帰路のインダクタンスでGNDが持ち上がる」現象です。
つまり、信号波形そのものが汚い場合だけでなく、基準(GND)が動いているせいで誤動作や性能劣化が起きるケースがある、ということが見えてきます。

定番対策の意味を整理する(パスコン・フェライト・GNDベタ)
ここでは、パスコン・フェライト・GNDベタが「何に効く対策なのか」を整理します。
- パスコン追加:電源ラインの高周波ノイズを近くで落として、ICの電源電圧がフラフラしないようにする対策です。ポイントはICの電源ピンのすぐ近くに置くこと。遠い場所に置くと、配線の寄生Lのせいで高周波が通りにくくなり、効きが弱くなります。
- フェライト追加:高周波だけを通しにくくして、ノイズが広がるのを抑える対策です。例えば「DC/DCのスイッチングノイズが他の回路に回り込む」「無線部に電源ノイズが入る」といったときに、ノイズを止めたい境界(汚い側ときれい側の間)に入れます。部品によって効きやすい周波数帯が違うので、狙いに合うものを選びます。
- GNDベタ:信号電流の戻り道(帰路)を近くに作って、電流が遠回りしないようにする対策です。戻り道が近いほど、L成分が小さくなりノイズの発生が減少します。またループ(行き+帰り)が小さくなり、放射や他回路への回り込みが減ります。ただし、GNDを分断したりスリットを跨いだりすると、戻り道が迂回して逆に悪化することもあるので、電流がどこを流れるかを意識するのがコツです。
まとめ
ノイズ対策は、まず発生源→伝搬→被害点の3点で整理すると迷いが減ります。特に基板では、回路図に描かれていない寄生成分(L/C/R)が伝搬を作り、被害点へノイズが入り込むことで問題が表面化します。
uSimmicsで最小モデルを作って波形を見ると、対策の意味が腹落ちします。次回以降は、このフレームを使いながら、反射とリンギング(終端・伝送線路)、フェライトビーズ(損失が効く理由)、クロストーク(結合C/L)、デカップリングとGND(共通インピーダンス)を順番に“波形で理解”していきます。

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