QucsStudioでのVSWR(電圧定在波比)解析入門ガイド

シミュレーション

VSWRの基本からアンテナ性能評価まで

VSWRはアンテナや高周波伝送路の設計、評価において重要な指標です。この記事では、VSWRの概念とその測定方法、そしてQucsStudioを利用したアンテナのSパラメータからVSWRグラフ表示までの手順を解説します。

VSWRとは何か?

VSWR(Voltage Standing Wave Ratio、電圧定在波比)は、高周波信号が伝送路を通過する際に一部が反射し、進行波と反射波が干渉して生じる定在波の振幅の最大値と最小値の比率を表します。理想的には、VSWRの値は1になり、これは伝送路と負荷間の完全なインピーダンスマッチングを意味します。VSWRの値が大きいほど、マッチングが悪く反射が増えることを示し、通信の品質に悪影響を及ぼします。

VSWRの測定と計算

VSWRの測定は、反射波と進行波を区別するために方向性結合器を用いて区別して測定し、それらの比率からVSWRを計算します。
具体的には専用のVSWRメーターまたはネットワークアナライザを使用して行います。これらの機器は、進行波と反射波の振幅を測定し、次の式を用いてVSWRを計算します。

ここで、Γ(ガンマ)は反射係数です。反射係数の絶対値が小さいほど良好なマッチング状態を示します。

VSWRの重要性

VSWRの値が1に近い場合、すなわち理想的なインピーダンスマッチングが行われている場合、供給された電力はほぼ全てアンテナによって利用されます。これは、高い送信効率や受信感度を達成している状態を意味し、通信の品質や範囲を最適化することができます。逆に、VSWRの値が大きくなると、マッチングが悪くなり、アンテナへの電力供給の一部が反射され、利用されずに失われます。これにより、アンテナシステムの性能が低下し、送信効率の低下や受信感度の悪化が引き起こされます。
例えば、アンテナではVSWR値が1.5以下であることが望ましいとされており、これは反射電力が4%以下であることを意味します。

VSWRとリターンロス

VSWRと密接に関連する別の指標にリターンロスがあります。リターンロスは、伝送路に供給された電力がどれだけ反射されずに負荷で消費されるかを示し、通常デシベル(dB)で表されます。リターンロスが大きいほど、反射が少なく、マッチングが良好であることを意味します。リターンロスは次の式で計算されます。

リターンロス = -20 log10 |Γ|

VSWRとリターンロスは、伝送路のマッチング状態を評価するために互いに補完的に使用されます。

QucsStudioを使用したVSWRグラフ表示の方法

QucsStudioは、電子回路設計とシミュレーションを行うためのソフトウェアツールです。アンテナやその他の高周波コンポーネントのSパラメータ(散乱パラメータ)を測定し、それを基にVSWRを計算して表示する機能を持っています。

実際にQucsStudioでSパラメータのグラフを表示する方法を説明します。
今回記事で使用するSパラメータはJHOHANSON製の2.4GHz帯のチップアンテナ2450AT07A0100001Tを使います。SパラメータはWebからダウンロードすることができます。

  1. QucsStudioを開く: QucsStudioを起動し、新しいプロジェクトを作成します。
  2. Sパラメータファイルのインポート: 「Project」ビューの「Components」タブに移動し、「system components」から「s-parameter file」を選びます。回路図上にs-parameter fileコンポーネントを配置し、ダブルクリックしてプロパティウィンドウを開き、「Ports」の数を設定し、「File」プロパティでSパラメータファイルを選択します。
  3. シミュレーション実行:power sourceを追加し、Sパラメメータシミュレーションを実行します。
  4. グラフの作成: 「Insert」メニューから「Diagram」を選択し、「Cartesian Diagram」をプロジェクトに追加します。ダイアグラムの設定に入り、「Data」タブからリターンロスのデータdB(S[1,1])を選択しグラフを作成します。(シミュレーションを実行するとここまで自動で作成される場合があります)

ここで表示されるのはリターンロスのグラフです。ここからでも2.4~2.5GHzで反射が少ないことがわかりますが視覚的に判断しにくいのでVSRWのグラフに変更します。

グラフをダブルクリックしてプロパティを表示します。
dB(S[1,1])のグラフを選択し、vswr(S[1,1])に書き換えます。

これだけでVSWRのグラフに変換することが可能です。リターンロスでの表示に比べるとVSWRのグラフのほうがアンテナの共振範囲が視覚的に見やすいことがわかります。

この記事では、VSWRの基本原理からその計算方法、さらにはQucsStudioを使用したアンテナのSパラメータからVSWRグラフ表示までの手順に至るまで紹介しました。VSWRはアンテナのインピーダンスマッチング状態を評価し、通信システムの性能を最適化するための不可欠な指標です。今回のガイドを通じて、VSWRの理解を深め、実際にアンテナの設計や評価に役立てることができれば幸いです。

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