LANケーブルやオーディオケーブルには「ツイストペア」構造が使われています。なぜ線を撚るとノイズに強くなるのか、直感的にわかっている人は意外と少ないかもしれません。
この記事では「平衡」という概念から出発し、ツイストペアケーブルがノイズをキャンセルする仕組みを解説します。
「平衡」とは何か
電気回路における平衡とは、信号の往き線と戻り線が「あらゆる意味で対等」な状態のことです。
普通の信号線(シングルエンド)は、往き線は独立した1本ですが、戻り線はグラウンドという共通線を使います。往きと復りが非対称ですから、これは不平衡です。
これに対して往きと戻りが完全に対等な構成を平衡回路と呼びます。現実には完全な平衡は不可能ですが、「実用上十分に対等」であれば平衡と見なせます。

平衡の効果 ― 外来ノイズがコモンモードになる
平衡配線の最大のメリットは、外部からのノイズがコモンモードとして入ることです。
2本の線が対等に並んでいると、外部から電磁ノイズが加わったとき、2本の線には等しい大きさのノイズが乗ります。これはコモンモードです。差動(ノーマルモード)成分は発生しません。

コモンモードノイズはモードの差を利用して除去できます(コモンモードノイズの記事参照)。一方ノーマルモードノイズは信号と同じモードなので除去が困難です。
つまり「ノーマルモードノイズを受けにくくする代わりに、コモンモードノイズを受け入れる」のが平衡の戦略です。受けたとしてもコモンモードであれば除去できるので、トータルでノイズに強くなります。
ツイストペアはなぜ効くのか
平衡ケーブルの中で実用上もっとも平衡度が高いのがツイストペアケーブルです。2本の線を螺旋状に撚り合わせた構造をしています。
外部ノイズを受けるとき
外部の磁力線(変化する磁界)がケーブルに鎖交すると、ループに起電力が発生します(電磁誘導)。ツイストペアでは、隣り合う撚りで磁力線が通過するループの向きが交互に反転します。
結果として、各撚りで発生する起電力が互いに打ち消し合い、全体としてのノイズ電圧がゼロに近づきます。

外部にノイズを出すとき
ケーブルに流れる電流が磁力線を発生させますが、ツイストペアでは隣り合う撚りで電流の向きが逆になります。発生する磁力線も打ち消し合うため、ケーブル遠方への漏れが非常に小さくなります。

つまりツイストペアは、ノイズを受けにくく、かつノイズを出しにくいという両面で優れています。
平行ケーブルとの違い
2本の線を撚らずに並列に走らせる「平行ケーブル」も、ある程度の平衡度はあります。しかし、2本の線が常に同じ位置に固定されているため、外部の電磁界の向きによって一方の線にだけノイズが多く乗る状況が生じます。
ツイストペアは撚ることで2本の平均位置が一致し、どの方向から来るノイズに対しても打ち消しが有効に機能します。
基板上での平衡配線
プリント基板では、ツイストペアに相当する真の平衡配線を作ることはできません。しかし、信号の往き線と戻り線のパターンを並走させることで、平行ケーブルに相当する平衡度を持たせることができます。
また、グラウンドプレーンと信号線の組み合わせ(マイクロストリップライン)は、高周波では同軸ケーブルに近い特性を持ち、外部ノイズの遮蔽効果があります。
平衡が必要な場面、不要な場面
平衡回路は線の本数が増え、コストが上がります。すべての配線を平衡にする必要はありません。
平衡が特に有効な場面:
- 長距離伝送・機器間インターフェース(RS-422、RS-485、Ethernet など)
- 低レベル信号・センサ出力の伝送(コモンモード電圧が大きい場合)
- 強いノイズ環境の中での信号伝送
機器内部のデジタル回路は、ノイズマージンがあるため通常は不平衡(シングルエンド)で十分です。インターフェース部分だけを差動(平衡)にする設計が現実的です。
まとめ
- 平衡とは往き線と戻り線が対等な配線。外来ノイズをコモンモードとして受け、ノーマルモードノイズを抑制する
- ツイストペアは撚り構造により、外部ノイズの誘導起電力を打ち消す ― 現実的に最も平衡度が高い
- ノイズを受けにくいだけでなく、外部へのノイズ漏れも小さい ― 被害者と加害者の両面で優れる
- 長距離伝送や低レベル信号の伝送に有効。機器内部は通常シングルエンドで十分


Comment