QucsStudioを使ったLPF設計:実部品のSパラメータを用いた最適化手法

考察

前回は、理想コンデンサやインダクタを使用したSub-GHz帯(915MHz)通信用のLPFの設計とシミュレーションをQucsStudioで行いました。今回は、その続編として、村田製作所の実際の部品を使用して、より現実に近いシミュレーションを実施し、理想部品との比較を行います。

前回記事

実部品の選定

QucsStudioのlumped componentsで呼び出せるコンデンサやインダクタは理想部品になります。実際の部品では寄生インダクタンスや寄生容量が含まれるため、理想部品と同じ特性にはなりません。

そこで今回は、村田製作所が提供している実際の部品のSパラメータを使って、より実際の回路に近い結果を導き出すシミュレーションを実施します。
チップコンデンサGRM03シリーズとチップインダクタLQP03TGシリーズを使用しました。これらの部品は、広く利用されている標準的な部品で、一般的な通信機器の設計に適しています。
Sパラメータは村田製作所のHPから取得することができます。

QucsStudioの回路図に、理想部品で構成したフィルタと、実部品のSパラメータで構成したフィルタを作成します。以下の部品を使用します。

  • GRM0332C15R6BA01(5.6pF)
  • GRM0332C14R1BA01(4.1pF)
  • GRM0334C11R5BA01(1.5pF)
  • LQP03TG15NJ02(15nH)
  • LQP03TG10NJ02(10nH)
  • LQP03TG3N7B02(3.7nH)

初回シミュレーション結果

これらをシミュレーションした結果のS21です。赤―理想部品、青―実部品

一見すると、実部品のほうが減衰が大きく良い特性に見えますが、通過帯域と2倍波帯域を詳しく見てみると、実部品では、通過帯域が大きく減衰しています。これは実際の部品が持っているDC成分や寄生容量、寄生インダクタンスにより損失が大きくなっています。

スタンダード素子

GRM03シリーズとLQP03TGシリーズを使用したシミュレーションでは、理想部品を使用した際の結果と比較して約2dBの乖離が確認されました。実際のアプリケーションにおいて性能への影響が懸念されるレベルです。

部品の最適化と再シミュレーション

ここで、より低損失な部品、GJM03シリーズ、LPQHQ03シリーズの部品に変えてみます。これらの部品はDC成分などが少なくなるように設計されており良好な特性が期待できます。
それぞれの部品は次の物を使います。

  • GJM0335C1E5R6BB01(5.6pF)
  • GJM0335C1E4R1BB01(4.1pF)
  • GJM0335C1E1R5BB01(1.5pF)
  • LQP03HQ15NH02(15nH)
  • LQP03HQ10NH02(10nH)
  • LQP03HQ3N7B02(3.7nH)

シミュレーションを行った結果が下のグラフです。
特性が理想部品に近づいているのがわかります。

低損失素子

2dBの乖離を改善するために、より低損失を特徴とするGJM03シリーズのチップコンデンサとLQP03HQシリーズのチップインダクタに部品を変更し、再シミュレーションを行いました。この変更により、乖離は約1dBまで改善されました。

分析と考察

この結果は、求められる性能に応じて部品の種類を適切に選定することの重要性を示しています。理想部品を使用したシミュレーションでは見えなかった性能の乖離を、実部品のSパラメータを使用することで明らかにし、最適な部品選定によって性能を向上させることが可能です。

結論

QucsStudioを用いた実際の部品のSパラメータを使用したシミュレーションは、設計プロセスにおいて非常に有効です。特に、性能の細かな最適化が求められる場合、部品の種類を変えながら検証を重ねることで、目標とする性能を達成することができます。このプロセスを通じて、より現実に即したフィルタ設計が実現可能となります。

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