PCB設計における信号伝達の品質を左右する重要な要素の一つが特性インピーダンスです。特に、ストリップラインのような内部伝送線路においては、その特性インピーダンスの正確な計算と管理が必須です。この記事では、QucsStudioを用いてストリップラインの特性インピーダンスを計算する方法をステップバイステップで解説します。
1. ストリップラインとは
ストリップラインは、二つの接地面の間に埋め込まれた導体から構成される伝送線路です。その特性インピーダンスは、導体の幅、基板の誘電率、そして導体と接地面との間隔によって決まります。
他にもよく使われる伝送線路にマイクロストリップラインがありますが、それぞれ以下のような違いがあります。
ストリップライン
- 構造: 二つの接地面の間に埋め込まれた導体から構成される。
- メリット: EMI(電磁干渉)への耐性が高く、電磁波の漏れが少ないため、高周波数での使用に適しています。また、両面に接地層があるため、より一定の特性インピーダンスを実現しやすい。
- デメリット: 製造コストが高くなりがちで、設計の複雑さが増す。
マイクロストリップライン
- 構造: 基板の片面に導体(トレース)、もう一方の面に接地面を配置した構造。
- メリット: 製造が容易でコストが低い。また、トレースへのアクセスが容易なため、設計や修正がしやすい。
- デメリット: EMIへの耐性が低く、高周波数での使用において電磁波の漏れや信号の劣化が起こりやすい。
2. 特性インピーダンスの計算の重要性
ストリップラインの特性インピーダンスは、信号の反射を最小限に抑え、伝送損失を低減させるために最適化される必要があります。不適切なインピーダンス設計は、信号の劣化や損失を招き、最終的なデバイスの性能に悪影響を及ぼします。
3. QucsStudioによるストリップラインの特性インピーダンス計算
QucsStudioは、ストリップラインを含むさまざまな伝送線路の特性インピーダンス計算を容易に行えるツールを提供しています。以下のステップで、ストリップラインの特性インピーダンス計算方法を説明します。
次の仕様のPCBで構成されるストリップラインを例にして、実際にQucsStudioを使用して特性インピーダンスを求めてみます。
ステップ1: QucsStudioの起動と設定
- 起動: QucsStudioメニューバーの「Tools」からLine Calculationを選択します。
- 種別の選択:「choice」からインピーダンスを計算したい構造「Stripline」を選択します。
- 必要なパラメータの入力: ここで、インピーダンス計算に必要なパラメータを入力します。
ステップ2: 基板情報の入力
まずPropertiesに基板の情報を入れます
- εr: 基材の比誘電率です。一般的なFR-4は4.5ですが、使用する基材によって異なるため、具体的な値は基材の仕様を参照してください。
- tanδ:基材の電気的損失を表す指標の誘電正接を入れます。これも使用する材料に合わせて数値を入れてください。特性インピーダンスには影響しませんが、伝送損失に影響するため高周波の信号を使用する基板では重要です。
- Resistivity: 導体の抵抗率を入れます。銅の場合は1.72×10-8Ωです。これも特性インピーダンスには影響せずに伝送損失に影響します。
- Conductor μr:基材ではなく導体の比誘電率です。使用する導体の値を入れます。
- Roughness:導体の表面粗さです。一般的に高い周波数を使う用途では表皮効果の影響が大きくなるので表面が滑らかな材料を使います。基板の仕様に合った値を入れてください。GHzオーダーの周波数の場合にはそれほど気にする必要はありません。
- T:導体の厚みです。今回の基板例では20um。
- H:誘電体の厚み。0.9mm。
- h:導体の位置。0.44mm
次に右上の「Parameters」にターゲットとする周波数を入れることで準備は完了です。
ステップ3: 特性インピーダンスの確認
「Dimensions」にてトレース幅Wの値を入力すると、それに応じた特性インピーダンスが計算され表示されます。また逆に特性インピーダンスZoに値を入力すると、必要なトレース幅を計算して出力してくれます。
今回の基板ではトレース幅を358umとすることで特性インピーダンス50Ωのストリップラインが形成できることがわかりました。
4. まとめ
ストリップラインの特性インピーダンスの正確な計算は、高品質な信号伝達を実現するために不可欠です。QucsStudioを使用することで、設計プロセスが簡素化され、より効率的に最適なインピーダンス値を導出できます。
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