QucsStudioは、電子回路設計とシミュレーションの世界で大変便利なツールです。これは、ストリップラインのような伝送線路の特性インピーダンスを計算する際に役立ちます。以前にはQucsStudioを用いたストリップラインの特性インピーダンス計算方法をご紹介しましたが、今回はさらに一歩踏み込み、実際の基板上での計算時に直面する課題を詳細に掘り下げていきます。この記事では、理論と実践のギャップを埋め、より実用的な知識を紹介していきます。
ストリップラインとは
ストリップラインは、基板の内部に埋め込まれた平行な導体で構成される伝送線路です。この構造は、信号線を上部と下部の接地面に挟み込むことで、電磁波の放射を抑え、信号の伝播を制御します。主にマイクロ波やRF(無線周波数)アプリケーションで使用され、高周波数での信号伝送に適しています。
ストリップラインの特性インピーダンスは、信号線の幅、基板の厚さ、誘電率といった物理的なパラメータに依存します。このインピーダンスは、信号源と負荷間のインピーダンスマッチングに重要であり、マッチングが不適切だと反射や損失が発生し、信号品質が低下します。
特性インピーダンスの計算
QucsStudioのTransmission Line Calculatorを使えば、特性インピーダンスの計算は指先一つで瞬時に完了します。非常に便利なこのツールは理論計算を容易にしますが、これを実際のプリント基板に適応しようとすると、新たな課題が浮かび上がります。理想と現実の間にはギャップが存在するので、どのように計算に適用するかが重要になってきます。
エッジングアンダーカットによる問題
プリント基板の製造において、サブトラクティブ法という製法がその効率性とコストパフォーマンスの良さから多く利用されています。しかし、このプロセスにはエッチングアンダーカットと呼ばれる課題が伴います。
この製法では、銅被覆された基板から不要な銅を化学的に除去し、必要な回路パターンだけを残すことで基板上にパターンを形成します。
エッチングアンダーカットとは、エッチングプロセス中に銅層の側面が意図せず斜めに溶解する現象を指します。この結果、パターンが本来の設計より台形になってしまい、上部が狭くなる傾向にあります。この形状の変化は、特に高周波数での信号伝送に使用されるストリップラインの特性インピーダンスに直接影響します。
台形のパターンが特性インピーダンスに与える影響は無視できません。インピーダンスの計算では通常、パターンの幅が一定と仮定されますが、エッチングアンダーカットにより上部が狭くなると、実際のインピーダンスは計算値よりも高くなる傾向があります。このずれは、信号の反射や損失を引き起こし、結果として信号品質の低下につながります。
したがって、エッチングアンダーカットの影響を理解し、これを考慮に入れたインピーダンス計算を行うことが、正確な回路設計には不可欠です。
台形パターンを考慮したインピーダンス計算の必要性
このような台形パターンの影響を考慮に入れたインピーダンス計算は、正確な回路設計には不可欠です。特に高周波数を扱う回路では、微小なインピーダンスのずれも重要な問題となり得るため、台形補正を行った上でのインピーダンス計算が求められます。
このプロセスを適切に行うことで、信号品質の向上と効率的な回路設計が実現されます。
台形補正計算
台形パターンの影響を補正するには、次のように台形の上辺と下辺の平均をとります。
W=(W1+W2)/2
この補正された幅を使用して、再びQucsStudioで特性インピーダンスを計算します。
これらの詳細な仕上がり寸法に関する情報は基板サプライヤーから入手してください。
経験則として、パターン幅を指定寸法より約10%小さく計算すると、計算されたインピーダンスと実測値が一致しやすいです。例えば、パターン幅を100μmで設計し製造した場合、実際のパターン幅はW1=80μmやW2=100μmとなることが見込まれます。このため、特性インピーダンスを計算する際には、パターン幅を90μmとして計算すると良いでしょう。このアプローチにより、理論値と実測値の間の一致を改善できます。
結論
QucsStudioを活用することで、ストリップラインの特性インピーダンスを正確に計算できます。サブトラクティブ法による台形パターンの影響を理解し、適切に補正することが重要です。これにより、信号伝送の品質を確保し、効率的な回路設計を実現できます。
コメント