プリント基板の特性インピーダンスをブラウザ上で計算するツールです。マイクロストリップ、対称ストリップライン、非対称ストリップライン、差動ペア(マイクロストリップ/ストリップライン)の5構造に対応しています。
他の計算ツールにない点として、コア材とプリプレグで比誘電率が異なる非対称構造と、エッチングで台形になった導体断面をそのまま入力できます。どちらも実際の基板では当たり前に起きるのに、無視して計算されることが多い要素です。
どの構造を選べばよいか
| 構造 | 使う場面 |
|---|---|
| マイクロストリップ | 表層(L1 / 最下層)の配線。片側が空気に開放されている |
| ストリップライン(対称) | 内層配線で、上下のGND層までの距離が等しい場合 |
| ストリップライン(非対称) | 内層配線で、上下の距離または誘電率が異なる場合。実際の多層基板はほぼこちら |
| 差動ペア(マイクロストリップ) | 表層の差動配線。USB、LVDS、Ethernet など |
| 差動ペア(ストリップライン) | 内層の差動配線。ノイズ耐性を優先する場合 |
入力パラメータの意味
- Wtop / Wbot — 導体の上底幅と下底幅。エッチング後の断面は台形になるため、2つに分けて入力します。矩形として扱いたい場合は同じ値を入れてください。
- T — 導体厚。銅箔の重さで指定する場合は単位に oz を選べます(1 oz ≈ 35 µm)。
- H — マイクロストリップの基材厚(導体からGNDまでの距離)。
- B — 対称ストリップラインの接地板間隔(上下のGND層の間の距離)。
- H1 / H2 — 非対称ストリップラインで、導体から上側GND/下側GNDまでの距離。
- εr — 比誘電率。FR-4 なら 4.2〜4.5 程度ですが、材料と周波数で変わるためメーカーのデータシートの値を使ってください。
- S — 差動ペアの導体間ギャップ。下底側の最小クリアランスとして入力します(台形の場合、上側より下側のほうが狭くなるため)。
コア材とプリプレグで誘電率が違う場合
多層基板の内層配線は、片側がコア材、反対側がプリプレグに挟まれるのが普通です。この2つは樹脂含有率が違うため、比誘電率も違います。たとえばコアが 4.3、プリプレグが 4.1 といった具合です。
一般的な計算ツールは εr を1つしか入力できないため、平均値で妥協することになります。本ツールの「ストリップライン(非対称)」タブでは εr1(上側)と εr2(下側)を別々に入力できます。
計算は導体の上側と下側の容量を分離して求め、それを合成する方法を使っています。このとき実効比誘電率 εeff は各側の空気中容量で重み付けした値になり、単純に厚みの逆数で加重平均した値とは一致しません。ここを単純平均で済ませると、上下の非対称が大きいほど誤差が開きます。
エッチングによる台形断面の扱い
サブトラクティブ法で銅箔をエッチングすると、エッチング液が上から作用するため上側がより多く削れ、断面は上底が狭い台形になります。設計上は W を1つの値で指定しますが、実物は上下で幅が違います。
本ツールでは Wtop と Wbot を別々に入力し、等価幅 (Wtop+Wbot)/2 として扱います。入力するとエッチファクタ(T ÷ 片側のアンダーカット量)も表示されるので、基板メーカーから提示される値と突き合わせられます。
非対称ストリップラインでは、上側の容量計算に Wtop、下側に Wbot を適用します。台形の向きがインピーダンスに与える影響も反映されます。
差動ペアの計算について
差動ペアのタブでは、差動インピーダンス Zdiff に加えて偶モード Z0e、奇モード Z0o、コモンモードインピーダンス Zcomm を表示します。関係は次のとおりです。
Z_diff = 2 × Z_0o Z_comm = Z_0e / 2
コモンモードインピーダンスは、コモンモードチョークの選定やコモンモード終端の設計で必要になります。差動値だけを出すツールが多いので、両方見たいときに使ってください。
ギャップ S は下底側の最小クリアランスとして入力し、台形の場合は等価ギャップ S+(Wbot−Wtop)/2 に換算しています。導体厚の補正は、導体の縁が左右へ広がる分だけギャップが狭くなる形で与えているため、ピッチ Wbot+S は保存されます。設計で指定するピッチとズレないようにするためです。
計算式と出典
| 構造 | 計算式 |
|---|---|
| マイクロストリップ | Hammerstad–Jensen のクローズドフォーム+導体厚補正 |
| ストリップライン | 等角写像による厳密解(完全楕円積分)+Wheeler の導体厚補正 |
| 非対称ストリップライン | 上下の容量を分離して合成(容量分割法) |
| 差動マイクロストリップ | Kirschning–Jansen の静的クローズドフォーム(偶/奇モード) |
| 差動ストリップライン | Cohn の等角写像による偶/奇モード解 |
完全楕円積分は算術幾何平均(AGM)法で、倍精度の限界まで収束させています。級数展開による近似は使っていません。
精度と適用範囲
実装の検証は、差動ペアのギャップ S を十分に広げたとき、偶モードと奇モードがシングルエンドの値に一致するかという自己整合チェックで行っています。ストリップラインは計算機イプシロンのレベルで一致し、マイクロストリップも S/H が大きい領域で 0.001 % 以内に収束します。同様に、非対称ストリップラインは H1=H2 かつ εr1=εr2 かつ矩形断面のとき、対称ストリップラインと完全に一致します。
- 静的(低周波)モデルです。周波数分散、導体損、誘電損、表面粗さは含みません。数 GHz を超えると実測より低めの値が出ます。
- 絶対値としては数 % 程度の誤差を見込んでください。基板メーカーの実測値や電磁界シミュレーションとは必ずズレます。
- 推奨範囲を外れた入力には警告を表示します(W/H、T/B、S/H、εr など)。警告が出ていても計算は続きますが、値の信頼性は下がります。
- 最終確認は uSimmics(Qucs-S)などの電磁界シミュレーションで行ってください。
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