Qucs-Sとは?LTspiceやuSimmics(旧QucsStudio)との違いを解説【2026年版】

Qucs-S フォーク系統図 — SPICEエンジン連携 基本操作

uSimmics(旧QucsStudio)やLTspiceを調べていると、Qucs-Sという名前も出てくることがあります。名前が似ているため混乱しやすいですが、設計思想と得意領域はそれぞれ大きく異なります。本記事では、Qucs-Sとは何か・なぜ存在するのか・uSimmics(旧QucsStudio)およびLTspiceとどう違うのかを整理します。

この記事でわかること

  • Qucs-Sとは何か、誰が開発しているか
  • 「フォーク」の概念とQucsファミリーの分岐図
  • Qucs-SのSPICEエンジン接続の仕組み(Ngspice・Xyce等)
  • LTspice・uSimmics(旧QucsStudio)・Qucs-Sの3ツール機能比較
  • Qucs-Sが向いている場合・向いていない場合

Qucs-Sとは

Qucs-Sは、Vadim Kuznetsov(ra3xdh)が開発しているオープンソースの回路シミュレータです。名前の「S」はSPICEを意味しています。

Linux・Windowsに対応しており、GitHubで公開されています。最新版はv25.2.0(2025年9月リリース)です。


なぜQucs-Sが生まれたのか

Qucs-Sの背景を理解するには、まず「フォーク」という概念を知っておく必要があります。

フォークとは、既存のソフトウェアのソースコードをコピーして、別の目的・方向に独自開発を進めることです。同じレシピをベースに、Aさんはスパイスを増やしてアレンジし、Bさんは素材を変えてまったく別の料理に仕上げる——そのような発展の分岐が「フォーク」です。

Qucs-Sは、Qucs(Quite Universal Circuit Simulator)というオリジナルプロジェクトからフォーク(派生)した回路シミュレータです。uSimmics(旧QucsStudio)も同じくQucsからフォークして独自進化したツールですが、両者はまったく異なる方向に発展しています。

Qucs(オリジナル)
    │
    ├── Qucs-S    ← SPICEエンジン接続に特化して分岐
    │
    └── QucsStudio(現:uSimmics)
                  ← RF・高周波機能に特化して分岐

フォークのきっかけとなった問題

Qucsの独自シミュレーションエンジン「Qucsator」はSPICEと互換性がありません。uSimmics(旧QucsStudio)も同様です。

SPICEは1970年代にカリフォルニア大学バークレー校で開発された回路シミュレーションの標準規格で、世界中の半導体メーカーがこの形式でデバイスモデルを公開しています。しかしQucsやuSimmics(旧QucsStudio)ではこのSPICEモデルをそのまま使うことができません。

この問題を解決するために生まれたのがQucs-Sです。「QucsのGUIを活かしながら、SPICEエンジンを接続して使う」という発想で開発されました。


Qucs-SのSPICEエンジン接続の仕組み

Qucs-S自体はシミュレータではありません。外部のSPICEエンジンを接続して初めて動作する、いわば「橋渡し役」です。

接続できるエンジンは複数あります。

エンジン特徴
Ngspice最も一般的。オープンソース。汎用
Xyceサンディア国立研究所製。大規模回路向け
SpiceOpus最適化シミュレーション向け

エンジンを切り替えることで、用途に応じた使い分けが可能です。これはLTspice・uSimmics(旧QucsStudio)にはない特徴です。


3ツールの機能比較

項目LTspiceuSimmics(旧QucsStudio)Qucs-S
エンジンSPICE独自SPICE(外部接続)
SPICEモデル互換
DC / AC / トランジェント解析
Sパラメータ解析
ハーモニックバランス解析
電磁界シミュレーション(EM)
スミスチャート
フィルタ合成
複数エンジン切り替え
オープンソース
対応OSWindows / MacWindowsLinux / Windows
インストール必要不要(ZIP解凍のみ)必要

Qucs-Sが向いている場合

Qucs-Sが選択肢になるのは、以下のような場合です。

  1. Linuxをメイン環境として使っている場合:LTspiceやuSimmics(旧QucsStudio)よりも環境が整っています。uSimmics(旧QucsStudio)はWindowsのみの対応で、LTspiceのLinux版も公式にはサポートされていません。

  2. Qucsの回路図資産(.schファイル)を持っている場合:Qucs-Sでそのまま開いて使い続けることができます。

  3. オープンソースであることを重視する場合:LTspiceもuSimmics(旧QucsStudio)もソースコードは非公開です。Qucs-SはGitHubで全ソースコードが公開されています。


Qucs-Sが向いていない場合

一方で、以下の目的には向いていません。

  1. 高周波・RF設計が目的の場合:Qucs-SではなくuSimmics(旧QucsStudio)を選んでください。ハーモニックバランス解析・電磁界シミュレーション・フィルタ合成といったRF設計の核となる機能がQucs-Sにはありません。

  2. Windowsで手軽に始めたい場合:LTspiceかuSimmics(旧QucsStudio)のほうが導入が簡単です。Qucs-Sは外部エンジン(Ngspiceなど)を別途インストールして接続する手順が必要で、初期設定の手間がかかります。

  3. アナログ・デバイセズなど特定メーカーのSPICEモデルをすぐ使いたい場合:LTspiceのほうが環境が整っています。


3ツールの使い分けまとめ

3つのツールは競合ではなく、それぞれ得意領域が異なります。

  • 高周波・RF設計 → uSimmics(旧QucsStudio)
  • アナログ・電源設計 → LTspice
  • Linux環境・SPICE資産の活用・オープンソース重視 → Qucs-S

高周波設計を目的とするなら、まずuSimmics(旧QucsStudio)から始めることをお勧めします。LTspiceは「電源回路やアナログ設計が必要になったとき」、Qucs-Sは「Linux環境や既存のSPICE資産を活用したいとき」の選択肢として覚えておく程度で十分です。


まとめ

  • Qucs-SはQucsをフォーク(派生)したオープンソースの回路シミュレータ
  • 名前の「S」はSPICEの意味。SPICEエンジンをQucsのGUIで使うための橋渡し役
  • Qucs-S自体はシミュレータではなく、Ngspiceなどの外部エンジンを接続して使う
  • 高周波・RF設計には不向き。その用途はuSimmics(旧QucsStudio)一択
  • Linux環境・SPICE資産活用・オープンソース重視の場合に選択肢になる

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