電子回路の設計が高度化し、回路が高密度で複雑な配線を必要とする現代では、4層基板や8層基板などのマルチレイヤー基板の利用が重要性を増しています。マルチレイヤー基板は、異なる層で使用される基材がそれぞれ異なり、結果として誘電率も変わります。誘電率の違いは特性インピーダンスの計算を複雑にしますが、この計算は回路の性能と信号品質に直接影響するため、正確性が求められます。本稿では、QucsStudioを用いて、異なる誘電率を持つ基材を使ったストリップラインの特性インピーダンスを効果的に計算する方法を解説します。
QucsStudioを使った基板の特性インピーダンス測定
QucsStudioは電子回路の設計とシミュレーションを支える頼もしいツールです。伝送線路の特性インピーダンスを計算することも簡単にできます。
基板の特性インピーダンスを計算するツールはいくつもありますが、QucsStudioの便利な点は、
インピーダンス計算にとどまらず、様々な回路シミュレーションを同一プラットフォーム内で行える点です。この統合された環境が、設計プロセスを合理化し、より効率的な回路設計を可能にします。
ストリップラインの役割
適切にインピーダンスコントロールされたストリップラインは、伝送線路内の反射を低減し、信号を効率的に伝送します。このインピーダンスは、信号線の幅、基板の厚み、そして誘電率という3つの主要な要素によって決定されます。これらの要素を精密に設計し、インピーダンスのマッチングを適切に行うことは、回路設計における信号品質の保証と性能の最適化において、極めて重要です。
特性インピーダンスの計算方法
ストリップラインの特性インピーダンス計算は、誘電体の厚み(h)、導体の厚み(t)、および導体の幅(w)という三つの主要なパラメータによって決まりまり一般的には下記の近似式で計算できます。
基材の誘電率が同一な一般的な基板での特性インピーダンスの計算方法は別の記事で紹介していますのでこちらをご覧ください。
今回は次のような異なる誘電率を持つ層から構成される基材で構成される基板の特性インピーダンスの測定方法について解説します。
一般的な近似式では、異なる誘電率の基材を用いた場合は想定していないため、計算するのに加重平均法を用い誘電率を近似し、QucsStudoのTransmission Line Calculatorで特性インピーダンスを計算していきます。
加重平均法
異なる誘電率を持つ複数の層を有する基板の有効誘電率(εeff)は各層の誘電率とその層の相対的な高さ
を加重して平均化された値として近似できます。例えば、二つの異なる誘電率εr1, εr2を持つ層を考慮する場合、有効誘電率εeffは次のように近似できます:
例えば、h1=400um、h2=500umの場合を計算すると有効誘電率は次のようになります。
\[
\epsilon_{\text{eff}} = \frac{400 \times 3.8 + 500 + 4.5}{400 + 500} = 4.19
\]
ここで計算された有効誘電率をQucsStudioのQucsStudoのTransmission Line Calculatorに入れることで異なる誘電率で構成されたストリップラインの特性インピーダンスを求めることができます。
まとめ
QucsStudioを使えば、さまざまな誘電率の基材を使ったときでも特性インピーダンスを簡単に計算できます。この手法を活用すると設計者は信号の質を落とすことなく、スムーズで効果的な回路設計が可能になります。
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