QucsStudioのTransmission Line Calculatorは、電子回路設計における伝送線路の特性インピーダンスを計算するのに非常に便利なツールです。この記事では、マイクロストリップラインの特性インピーダンスの計算方法を、実際の数値を用いて説明します。
ステップ1: QucsStudioの起動とツールの選択
まず、QucsStudioを起動し、ツールバーの「Tools」メニューから「Line calculation」を選択します。
ステップ2: マイクロストリップラインのデータ入力
マイクロストリップラインの特性インピーダンス計算のために、以下のデータを入力します:
- 誘電率(εr): この例では、誘電率をFR4=
4.5
とします。 - 誘電正接(tanδ): 誘電体による損失を考慮しない場合は
0
とします。 - 抵抗率(Resistivity): ここでは
0.0001
(銅の抵抗)とします。 - 透磁率(Conductor μr): 銅の透磁率0.999994 とします。
- 導体表面粗さ(Roughness):今回は0.1μmとします。
- 導体厚さ(T):20μm
- 導体高さ(H):500μm
これらの値を入力した後、次の寸法を設定します。
ステップ3: 寸法の入力
シミュレーションしたいPCBパターンの寸法を入れます。ここでは例として、以下の値を使用します:
- 幅:
1.0 mm
- 長さ:
100 mm
ステップ4: 結果の確認
入力したデータに基づいて、QucsStudioは即座に特性インピーダンスの計算結果を表示します。今回の例では47.5176Ω
という結果になりました。
ステップ5: 計算結果の使用
計算結果は「Copy Component to Clipboard」をクリックすることでコピーでき、これを回路シミュレーションに利用することが可能です。
番外
Transmission Line Calculatorで設計できる伝送線路は以下の通りです。
伝送線路の種類と特徴
- Microstrip Line (マイクロストリップライン)
- 特徴: 一方の面が導体、他方が誘電体基板で、上面に狭い導体ストリップがある構造。高周波アプリケーションに適しており、設計が比較的簡単。
- Stripline (ストリップライン)
- 特徴: 誘電体基板の中に完全に埋め込まれた導体ストリップ。外部の電磁干渉に対する耐性が高い。
- Coplanar Waveguide (コプレーナーウェーブガイド)
- 特徴: 同一面上にある中央の導体ストリップと、両側の接地面で構成。低損失で、高周波アプリケーションに適用。
- Coplanar Waveguide with Backside (背面付きコプレーナーウェーブガイド)
- 特徴: 通常のコプレーナーウェーブガイドに加え、裏面に接地面がある。高い遮蔽効果を持つ。
- Slotline (スロットライン)
- 特徴: 導体板に狭いスロットを持ち、その端を開放した構造。非対称な伝送特性を有する。
- Coaxial Cable (同軸ケーブル)
- 特徴: 内部導体と外部導体(シールド)の間に誘電体がある。広帯域で安定した特性を持つ。
- Twisted Pair Cable (ツイストペアケーブル)
- 特徴: 2本の銅線をねじり合わせたケーブル。電磁干渉に対する耐性があり、通信用途に広く使われる。
- Rectangular Waveguide (長方形波導管)
- 特徴: 長方形の断面を持つ導波管。特定の周波数帯でのみ伝送が可能で、主にマイクロ波で使用。
- Coupled Microstrip Line (結合マイクロストリップライン)
- 特徴: 互いに影響を及ぼす複数のマイクロストリップライン。フィルターやバランス変換器などに使用。
- Coupled Strip Line (結合ストリップライン)
- 特徴: 互いに近接したストリップライン。結合特性を利用してフィルタやカプラーに用いられる。
- Coupled Coplanar Waveguide (結合コプレーナーウェーブガイド)
- 特徴: 近接した複数のコプレーナーウェーブガイド。結合効果を利用したデバイスに適用。
- Coupled Coplanar Waveguide with Backside (背面付き結合コプレーナーウェーブガイド)
- 特徴: 背面接地面を持つ結合コプレーナーウェーブガイド。高い遮蔽効果と結合特性を持つ。
コメント
icus studioでCPWの計算がしたくてこのサイトにたどり着いたのですが、グランドと中心導体の誘電率等のパラメーターは個々に設定できるのでしょうか。
基礎的な質問であったら申し訳ないのですが、ぜひ教えていただきたいです。
よろしくお願いいたします。
>riさん
グランドはCuで中心導体は別の物質を使うような伝送路を想定されているのでしょうか?
Qucs StudioのTransmission Line Calculatorでは、導体、基材それぞれに1つの設定しかできないです。
誘電率が異なる複数の材料を使う場合などは電磁界シミュレーションを使うのが有効かと思います。